仕事漬けのあなたは危ない!中年の危機がもたらす人生の転機

なくなるものに目を向けた時

ある日、同僚とのランチ中に「最近何してるの?」と聞かれた。仕事以外でやっていることを話す場面だ。しかし、頭に浮かんだのは何もない自分だった。読書?久しくしていない。運動?健康診断で「運動不足」と書かれるくらいだ。

結局、当たり障りのない返事で話を終わらせたが、その帰り道、ふと思った。「俺って、何が好きなんだっけ?」

昔の同僚が転職して遠くに行き、疎遠になったり。忙しさを理由に参加していた趣味のサークルから足が遠のいたり。そして、ある日ふと鏡を見ると、思っていたより老けた自分の顔がそこにある。

でも、それって悪いことだろうか?なくなるものがある一方で、僕たちの中には「残るもの」も必ずある。それは何かと問われると、僕はこう答えたい。「自分の核になるもの」だ。


中年危機

中年ほど心の危機をはらんだ季節はない──。日本文学の名作12編を読み解き、職場での地位、浮気、子どもの教育、老いへの不安に戸惑い、人生の大切な転換点を体験する中年の心の深層をさぐる、心理療法家ならではの「中年論」。


社会的な「鎧」を脱ぐ瞬間

人間は社会で生きる以上、「肩書き」という鎧を身にまとっている。会社員、役職、経歴などなど――これらの役割は、ある意味でその人のステータスシンボルでもある。

ところが、年齢を重ねていくと、それらの肩書きが「自分らしさ」から乖離していくことに気づく瞬間がある。

社会心理学者エリク・エリクソンが提唱した「ライフサイクル理論」では、40代から50代にかけて人は「生産性と停滞感」の間で葛藤するとされている。簡単に言えば、「自分の人生、このままでいいのか?」という疑問がわき起こる時期だ。

この時期に、仕事に全てを捧げてきた人が直面するのは「趣味がない」という現実だ。僕自身、若い頃は仕事に没頭していた。週末も仕事の準備や資料作成で埋め尽くし、趣味や遊びなんて考える余裕もなかった。でも、それが「当たり前」だった。

ところが、年齢を重ねてふと立ち止まった時、仕事以外の自分が空っぽに感じる瞬間が来る。そして、「趣味がない」という事実が、思った以上に自分を孤独にさせる。

仕事に没頭した理由を振り返る

なぜ僕たちは仕事に全てを捧げてしまうのだろうか。それはおそらく、「社会的な評価」を得られるからだ。仕事での成功は、収入や役職という形で目に見える結果をもたらしてくれる。

僕も若い頃、会社での昇進や評価を追い求めていた。それが「自分の価値」を証明する唯一の方法だと思い込んでいた。でも、それは本当に正しかったのか?

心理学者エイブラハム・マズローの「欲求階層説」を振り返ると、仕事で得られる承認や成功は「社会的欲求」や「承認欲求」の部分を満たすだけだ。その上にある「自己実現欲求」を満たすためには、自分自身の内面を深く掘り下げる必要がある。

趣味がなくても、好きなものは必ずある

「趣味がない」という状態は、実は「趣味を忘れている」だけかもしれない。

ある日、昔の写真を見返していた時、小学生の頃の僕が写った一枚が目に入った。その手には色鉛筆が握られ、スケッチブックに何かを描いている姿だった。そういえば、昔は絵を描くのが好きだったな――と思い出した。

そこから数日後、文房具屋でスケッチブックと鉛筆を買った。そして休日、久しぶりに絵を描いてみた。最初は手がぎこちなかったが、少しずつ没頭していく自分がいた。「ああ、これだ。この感覚だ」と思った。

趣味というのは、決して特別なものではなく、心が自然と惹かれるものだ。それに気づくには、少しだけ時間を取って、自分を振り返る必要がある。

趣味が人生に与える力

趣味には、人生を豊かにする力がある。趣味を持つことで、人生に新たな楽しみが生まれるだけでなく、ストレス解消や人間関係の広がりも期待できる。

ハーバード大学の研究によると、趣味や余暇活動を持つ人は、持たない人に比べて精神的な健康状態が良好であることがわかっている。特に「創造的な活動」は脳の活性化につながり、幸福感を高めるという。

僕自身、絵を描く時間を持つことで、自分の中に余白が生まれた気がする。仕事の合間に少しだけ鉛筆を握るだけでも、気持ちがリフレッシュする。そして、趣味を通じて新たな人間関係が生まれることもある。

社会的な鎧を脱ぎ、趣味や人間関係を手放し、肩書きを外した時に残るもの。それは実は、最初から自分の中にあったものだ。

誰かに教えられたわけでもないのに、いつも気になってしまうこと。何度も繰り返しやってしまうこと。それこそが「核」であり、「本当の自分」なのだと思う。

最近読んだ本にこんな一節があった。「人間は、失うことでしか自分を知ることができない。」この言葉は少し厳しいが、その通りだと思った。

終章:あなたも、今から見つければいい

もしこの記事を読んでいるあなたが、「趣味なんてない」と思っているなら、焦る必要はない。趣味は、他人に見せるためのものではないし、立派である必要もない。ただ、自分が楽しいと思えるものを見つければいい。

それが散歩でも、料理でも、昔好きだった音楽を聴くことでもいい。小さな一歩から始めれば、きっと「自分の好きなもの」が見えてくるはずだ。

僕もまだまだ、趣味を探す旅の途中だ。でも、その旅路そのものが楽しいと思えるようになった。そして、あなたにもその旅を始めてほしいと願っている。

さあ、次の休日は何をしてみる?


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