ハプニングが教えてくれた人生の楽しみ方
「行きたい場所があるんだよな」と口にする人は多い。だが、その場所に実際に行く人は意外と少ない。なぜなら、行動を起こすまでの間に“タイミング”という魔物が立ちはだかるからだ。
「仕事が落ち着いたら」 「お金が貯まったら」 「家族ができたら」
こんな言葉が次々と頭に浮かび、行動は先延ばしになる。それが「行きたい場所」への旅を妨げる最大の壁だ。
○ 「仕事とプライベートは分けない」「悲惨な事態もしぶとく楽しむ」「美しいか醜いかでビジネスを判断する」など、私たちの仕事の向き合い方に刺激を与えてくれるトピックが豊富に紹介される。マンマを中心とする家族関係、恋人とのつきあい方、食卓での流儀、地域別の特徴など、イタリア文化の読み物としても、大いに楽しむことができる1冊。
思い切って飛び出した旅の話
ある年、私は「いつか行きたい」と思っていた南イタリアに突然旅立つことを決めた。決め手は、何の前触れもない退屈な日常だった。
「今行かないと、一生行かないかもしれない」
思い立ったらすぐ行動。そんな軽い気持ちだった。
到着したイタリアのナポリは、想像を超えたカオスだった。道端でピザをほおばりながら見上げる青空、陽気な人々の笑い声。人生の喜びは、計画通りには訪れない。
予想外の出会いと小さな奇跡
旅の3日目、アマルフィ海岸を目指して列車に乗った。車窓から見える地中海はエメラルドグリーンに輝き、心を奪われた。だが、乗り換えの駅で予期せぬアクシデントが起きた。次の列車が突然の運休。炎天下の小さな駅で途方に暮れながらバス停を探していると、地元の老夫婦が声をかけてきた。
「困っているのかい?車で送ってあげるよ。」
最初は疑ったが、彼らの親切そうな笑顔にほだされ、申し出を受けた。車内ではイタリアの古い民謡が流れ、窓の外にはオリーブ畑とレモンの木々が広がる。老夫婦は楽しそうに互いの話を補い合いながら、イタリアの歴史や孫たちのエピソードを語ってくれた。
「この道は昔、戦争中に使われていたんだよ」と夫が言うと、妻が「でも今は平和で、こんな素敵な旅人に出会えるんだから幸せだわ」と微笑んだ。
途中、彼らは車を停め、丘の上の教会を指さした。「ここで私たち、50年前に結婚式を挙げたの」と妻が照れくさそうに笑った。今も変わらぬ景色を見つめながら、二人は遠い思い出を語り始めた。その瞬間、ただの移動が人生の物語を聞く貴重な時間に変わった。
アマルフィの町に近づくと、夫は「ここは特別な場所だよ」と言った。車を降り、広場に連れて行かれた。白壁の家々が重なり合い、足元には鮮やかな花が咲いている。市場では魚が跳ね、地元の人々が陽気に笑いながら商売をしていた。
「ここが私たちの大好きな場所だ。ぜひ見てまわって。」
別れ際、夫婦は自家製のレモンキャンディを手渡してくれた。「旅を楽しんでね」と微笑んだ。その甘酸っぱさが、今も忘れられない。
その後の旅の間も、アマルフィの美しい景色とともに、二人の優しさが何度も心に蘇った。思いがけない運休がなければ、この温かい出会いはなかっただろう。
別れ際に撮った一枚の写真には、陽の光に包まれた笑顔の老夫婦と私たちが写っている。そこには、偶然が生み出した心温まる瞬間が焼き付けられている。
計画にないからこそ、心に残る
思えば、旅のハイライトはどれも計画外だった。予定を立てすぎず、偶然に身を任せた瞬間こそが心に深く刻まれる。
まとめ
もし「行きたい場所」が心に浮かんだなら、どうかその思いを大切にしてほしい。タイミングはいつだって不完全だ。完璧な瞬間を待っているうちに、人生はどんどん進んでしまう。
だからこそ、今この瞬間に踏み出そう。「行きたい」と思った場所は、ただの夢ではなく、あなたの人生の一部になるはずだ。出発の決断をすることで、まだ見ぬ景色、忘れられない出会い、心に深く刻まれる物語が、きっと待っている。
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