リキッド消費とは?マーケティングに与える影響と活用方法
現代の消費行動は大きく変化しています。かつて「所有」が重視されていた時代から、「利用」や「体験」へと価値観がシフトし、消費者の購買行動はより流動的になりました。このような新しい消費スタイルを「リキッド消費(Liquid Consumption)」と呼びます。
本記事では、マーケティングに携わる方々に向けて、リキッド消費の概要や背景、マーケティング戦略への応用方法について詳しく解説していきます。近年のデータや具体的な事例を交えながら、実践的な視点を提供します。
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SNSで見た服をスマホで即ポチ、映画はサブスク、車はカーシェアでOK、ブランドもののバッグより他人がうらやむ珍しい経験を――若者から中高年まで、こうした今どきの消費行動の裏には、いったいどんな心理が働いているのか。次から次へとモノと情報が流れる時代にあって、現代人の消費スタイルは歴史的な変化を迎えている。マーケティングの専門家が、「リキッド消費」という新たな現象の謎を徹底解剖!
1. リキッド消費とは何か?
リキッド消費という概念は、2017年にマーケティング学者の ルーシー・バルディ(Lucie Baldé) と エリック・J・エクハルト(Eric J. Arnould) によって提唱されました。これは、消費者が 「所有」ではなく「アクセス」や「体験」を重視する 消費スタイルを指します。
リキッド消費の特徴は、以下の3つにまとめられます。
- 儚さ(エフェメラリティ:Ephemerality)
- 消費者はブランドや商品との関係を長く維持しようとせず、短期間での利用や流行の変化に応じた選択をする。
- 例:流行りのファッションブランドを短期間だけ着る、SNSで話題になったカフェに一度だけ行く。
- アクセスベースの消費(Access-based Consumption)
- 「モノを所有すること」よりも「必要なときに利用できること」を重視する。
- 例:音楽ストリーミング(Spotify)、カーシェアリング(タイムズカー)、ファッションレンタル(エアークローゼット)。
- 脱物質的な価値(Dematerialization)
- 物理的な商品よりも、デジタルコンテンツや体験への支出が増える。
- 例:Netflixなどのサブスクリプションサービス、VRを活用したバーチャルイベント。
2. リキッド消費が生まれた背景
リキッド消費が広がる背景には、以下のような社会的・技術的な変化があります。
(1) デジタル化とサブスクリプション・エコノミーの発展
NetflixやSpotify、Kindle Unlimitedなどのサブスクサービスの登場により、「所有しなくても十分に楽しめる」という価値観が浸透しました。
特に ミレニアル世代やZ世代 は、ストリーミングサービスを通じて音楽や映画を消費することに慣れており、CDやDVDを所有することにあまりこだわりません。
(2) 経済状況とライフスタイルの変化
日本では、バブル崩壊後の経済停滞により、「終身雇用」や「マイホーム購入」といった従来の価値観が揺らぎました。その結果、「所有するリスクを避ける」考えが若者の間で広まりました。
また、近年の物価上昇や不景気の影響で、「コストを抑えつつ豊かな経験を得る」 ことが求められています。
(3) 環境意識の高まり
持続可能な社会の実現に向けて、消費者の間で 「大量生産・大量消費からの脱却」 という意識が強まっています。
シェアリングエコノミーの成長もこの流れの一環であり、UberやAirbnbなどのサービスは、リキッド消費の象徴的な存在となっています。
3. リキッド消費がマーケティングに与える影響
リキッド消費の広がりにより、企業のマーケティング戦略にも大きな変革が求められています。具体的にどのような影響があるのか、いくつかのポイントを見ていきましょう。
(1) 「所有」よりも「アクセス」を提供するモデルへの移行
従来のビジネスモデルは「モノを売る」ことが中心でしたが、リキッド消費の時代には 「利用権を提供する」 ことが重要になります。
例として、 「サブスクリプション型ビジネス」 は、多くの業界で導入されています。
成功事例:アパレル業界のサブスク
ファッション業界では、エアークローゼットやMECHAKARIのような洋服レンタルサービスが成長しています。これらは「購入するよりも色々な服を試したい」という消費者ニーズに応え、リキッド消費の波に乗った成功例です。
(2) ブランドロイヤルティの低下とSNSマーケティングの重要性
リキッド消費の時代では、消費者は特定のブランドにこだわらず、そのときのトレンドや話題性に応じて商品やサービスを選びます。
そのため、SNSを活用した 短期間でのバズを狙うマーケティング戦略 が有効です。
成功事例:Z世代を狙ったTikTokマーケティング
コスメブランドの e.l.f. Cosmetics は、TikTok上で「#eyeslipsface」というハッシュタグチャレンジを実施し、10億回以上の再生数を獲得しました。短期間で大きな話題を生み出し、リキッド消費に適したマーケティング戦略を展開しました。
(3) 体験価値の最大化
物理的な商品ではなく、「体験そのものに価値を感じる」 消費者が増えているため、企業は「体験を売る」戦略を強化する必要があります。
成功事例:ナイキのDTC戦略
ナイキは直営店での購買体験を強化し、Nike Run Clubアプリなどのデジタル体験を通じてブランドへのエンゲージメントを高めています。これにより、消費者が「ただのスポーツブランド」ではなく、「ライフスタイルの一部」としてナイキを認識するようになりました。
4. リキッド消費時代のマーケティング戦略
ここまでの内容を踏まえ、リキッド消費に対応するための具体的なマーケティング戦略を提案します。
- サブスクリプションモデルの導入
- 一度の購入ではなく、継続的に利用してもらう仕組みを作る。
- SNSを活用した短期的なバズ戦略
- TikTokやInstagramを活用し、瞬発力のある話題作りを行う。
- ユーザー体験を最優先する施策
- 体験型イベント、インタラクティブなアプリの活用。
- エシカル消費・サステナビリティを意識したブランド戦略
- 環境意識の高い消費者に向けた施策を展開する。
5. まとめ
リキッド消費の時代では、「所有」よりも「アクセス」、「モノ」よりも「体験」に価値が置かれます。この変化を理解し、マーケティング戦略を柔軟に適応させることが、これからのビジネス成功の鍵となります。
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