料理をしながら考えたこと
料理と建築。一見、まったく異なる世界のように思えるけれど、実は驚くほど共通点が多いんです。最初にそのことに気づいたのは、ふと手に取った建築特集の雑誌を眺めていた時でした。
その瞬間、ふと頭に浮かんだんです。「これ、料理に似てるな」って。
建築のデザインや素材の選び方が、料理の工程や食材選びに重なって見えたんです。建物の基礎部分の写真を見ていると、それが料理でいう「下味」みたいに思えてきたり、完成した建物が盛り付けられた料理のように感じたりして。
雑誌の中に並ぶ建築の写真を眺めながら、料理と建築の意外な共通点を考えるきっかけになったのでした。
Casa BRUTUS特別編集 死ぬまでに見ておくべき100の建築
WORLD’S BEST ARCHITECTURE
死ぬまでに見ておくべき100の建築
「カーサ ブルータス」が今まで培った「建築力」を駆使したスペシャル企画。
アントニ・ガウディ、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライト、ルイス・カーンといったモダニズム建築の巨匠作品はもちろんのこと、
遺跡、庭園、住宅、美術館、プール、空港、ホテルなど、15ジャンル=100件の「一生に一度は見てみたいベスト建築」をセレクト。
1. 基礎と下味:しっかりとした土台が全てを支える
建築雑誌に掲載されていた建物の多くは、複雑で大胆なデザインを持つものでした。でも、ページの端には必ず「基礎工事」や「構造設計」に関する解説がありました。その写真を見た瞬間、私は思わず「これ、料理と同じだ」と声に出してしまいました。
料理の下味って、まさに基礎そのものなんですよね。たとえば、シンプルなグリルチキンでも、下味がしっかりしているだけでぐっと美味しくなります。一方で、下味が足りないと、どんな高級ソースをかけても味がぼやけてしまう。
建築でも、基礎工事が全てを支えています。高層ビルや斬新なデザインの建物であればあるほど、基礎部分の強度や精密さが欠かせません。耐震構造や地盤の強化は、住む人の命を守るための絶対条件です。
料理も建築も、「見えないところでどれだけ手をかけられているか」が、完成度を左右する。そんな共通点に気づいたとき、少し感動してしまいました。
2. レシピと設計図:完成形を描くための道しるべ
建築の設計図を初めてじっくり見たとき、まるで料理のレシピみたいだなと思いました。どちらも「完成形を目指すための計画書」ですよね。でも、どちらもそのままでは完成しないんです。
料理のレシピはガイドラインとして便利ですが、実際に料理を作るときはその場の感覚や素材の状態に合わせて調整します。たとえば、トマトソースを作るとき、レシピ通りでもトマトの甘さが足りないなら砂糖を足すし、酸味が強いなら調整する。その自由さが料理の面白さでもあります。
建築も同じです。設計図に書かれている通りに作るだけではなく、現場での状況や素材の状態に合わせて変更を加えることが必要です。安藤忠雄の建築では、光の差し込み方や風の流れを現場で確認しながら設計を調整していくそうです。
料理も建築も、「完成形をイメージしながら調整していく力」が求められる。そのプロセスが、作品に命を吹き込むんですよね。
3. 大衆性と芸術性:日常を支えるものと特別なもの
雑誌には、美しい建物だけでなく、住宅地に並ぶ普通の家やマンションの写真も載っていました。それを見て、建築には「大衆性」と「芸術性」の両方が求められるんだなと感じました。
料理にも同じことが言えます。ファストフードやコンビニのお弁当は、手軽に美味しく食べられるように作られています。これが「大衆性」です。一方で、ミシュラン星付きのレストランで出てくる料理は、味や見た目だけでなく、食べる体験そのものが芸術になっています。これが「芸術性」です。
建築でも、大量生産される規格住宅やマンションは、多くの人にとって暮らしやすい「大衆性」を重視しています。しかし、フランク・ゲーリーやザハ・ハディドの建築作品は、芸術性を極めたもので、その場にいるだけで感動を与えてくれます。
料理も建築も、大衆性と芸術性のバランスが重要です。そのどちらか一方に偏りすぎると、人々の心に響くものは作れません。この絶妙なバランスを取ることが、どちらの分野でも作り手の腕の見せ所なのです。
4. 細部に宿る美しさ:最後のひと手間が全体を輝かせる
雑誌の中で特に印象に残ったのは、ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの作品でした。「神は細部に宿る」という彼の言葉が示す通り、建物の細かいディテールにまで気を配る姿勢が写真から伝わってきました。例えば、ドアノブのデザインや壁の素材感、窓の位置といった小さな要素が、建物全体の印象を大きく変えています。
料理でも同じです。たとえば、スープに最後に振りかける黒胡椒や、盛り付けに使う一枚のハーブ。その小さな工夫が、料理全体の魅力を引き立てます。何気なく食べる一皿でも、細部にこだわることで「特別な一皿」に変わるんです。
料理と建築が持つ「細部へのこだわり」。それが、日常の中で人々に感動を与える力になるのだと改めて感じました。
まとめ:料理と建築は、実はこんなにも似ている
雑誌を読んでいるときに気づいた、料理と建築の共通点。それは、基礎(下味)やレシピ(設計図)、大衆性と芸術性のバランス、細部へのこだわりといった多くの要素が重なり合っていることでした。どちらも生活を支えるものだけれど、それを超えて人に感動を与える存在でもあります。
次に料理をするときや、街を歩いて建物を眺めるとき、この共通点を思い出してみてください。きっと、日常の中に新しい視点や発見が生まれるはずです。
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