浪費癖と20代の私
「ああ、またやっちゃった。」
これは、20代の頃の私の口癖だった。給料日には気分が高揚し、翌週には財布が薄くなる。その繰り返しだった。居酒屋の端っこで妙に高いおつまみを頼んでみたり、見栄を張ってブランドの服を買ってみたり。お金を使うこと自体が、なんだか大人の証みたいに感じられた。
だけど、使ったお金のほとんどが、「消えていくもの」だと気づいたのは、何かを手に入れる満足感が日に日に薄れていったからだ。満たされたはずの気持ちが、次の月にはまた空っぽになっている。どうしてこんなに無力なんだろう、って。気づいたときには、ちょっとした虚無感が心の中を占領していた。
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思い切った決断:貯金を崩して旅に出る
ある日、友人が何気なく言った。「お前って、何に生きてんの?」
その一言が胸に刺さった。普段なら軽口で流すのに、その日は違った。「何に生きてるのか?」と真剣に考え始めた。仕事は嫌いじゃないけど好きでもないし、プライベートだってそこまで充実してるわけでもない。ただなんとなく毎日が流れていく。それを「生きる」と言えるのか?
その答えを探すために、思い切って貯金を崩して一人旅に出ることにした。行き先は特に決めなかった。「なんでもいいから、遠くに行きたい」という漠然とした衝動だけだった。
旅先で見つけた「生きたお金」の意味
初めての一人旅で私が向かったのは、ふと目にした観光雑誌に載っていた小さな港町だった。大きな観光地でも、海外のリゾートでもない。旅慣れていなかった私には、その何もなさそうな場所が逆に気楽に思えたのだ。
町に着いたのは平日の昼下がり。駅を降りると、潮の匂いと古びたアーケード商店街が迎えてくれた。観光地らしさはほとんどなく、人通りもまばらだったが、妙に落ち着く雰囲気だった。
食堂での出会い
旅先では、できるだけ地元の人と話したいと考えていた私は、商店街を歩いて一番古びた食堂に入った。暖簾をくぐると、店内にはお客が一人もおらず、厨房で年配の夫婦が談笑していた。
注文したのは「今日のおすすめ」と書かれた定食。運ばれてきた魚の煮つけに箸を入れた瞬間、その柔らかさに驚いた。「これ、美味しいですね」と自然と口にしたら、おかみさんが嬉しそうに笑い、「朝、市場で仕入れたんだよ」と教えてくれた。
そのまま話が弾み、二人はこの町で生まれ育ち、40年以上この店を続けていると語ってくれた。特に印象に残ったのは、店主のおじいさんの言葉だ。
「食堂は派手じゃないけど、毎日やってることが誰かの思い出になる。それが俺たちの生きがいなんだよ。」
その時、ふと気づいた。この食堂で食べた食事は、単なる「食事」以上のものだった。夫婦の人柄や、町の空気感が全て溶け込んでいて、それが僕の心に何かを残してくれた。「これが生きたお金なんだ」と感じたのは、その瞬間だった。
夕日の丘での静寂
旅の最終日、地元の人に勧められた小高い丘に登ってみることにした。急な坂道を登り切ると、目の前に広がったのは一面の海と、沈みゆく夕日。風の音だけが聞こえるその場所で、私はただぼんやりとその光景を眺めていた。
普段、仕事や日常に追われていると、こんな静寂を感じる時間なんてない。その時、妙に心が軽くなった。財布の中身を気にしていた自分や、効率ばかりを求める生活がどうでもよく思えた。むしろ、この夕日を見に来るためだけに使ったお金の方が、よほど価値があるように感じた。
青年との会話
丘を下る途中、一人旅の青年に出会った。同じくこの町を訪れていたらしい彼とは、自然と会話が弾んだ。彼はフリーランスのデザイナーで、「仕事の区切りがついたから、ふらっと旅に出てきたんです」と言う。
彼が話した言葉が今でも印象に残っている。
「お金って、何に使ったかより、どう使ったかが大事なんですよね。形に残るものもいいけど、自分の心に残る経験って、一生消えないと思うんです。」
その一言が、旅全体のテーマを示してくれたように感じた。私が「生きたお金」を使えたのは、この旅で得た景色や出会い、経験そのものが自分の中で生き続けると気づいたからだ。
「生きたお金」が与える人生の彩り
「お金の使い方」に対する考え方は一変した。それまでの私は、ただ物を買うためにお金を使っていたけれど、この旅を通して得た経験は、心に一つの彩りを加えてくれた。物ではなく、経験や人とのつながりが「生きたお金」の本質なんだと気づかされたのだ。
人生で出会う何気ない瞬間が、大切な記憶に変わる。そのためのお金の使い方を、私はあの日の旅で初めて知ったのだ。
無駄遣いと価値の優先順位
旅から戻ってからは、自然と「生きたお金」を意識するようになった。例えば、友人や同僚との飲み会でも、「ただ酔っ払うだけ」ではなく、「深い話ができる相手と過ごす時間」を大事にするようになった。買い物でも、「本当に必要か?」と自問する癖がついた。
それでも、完全に無駄遣いをやめたわけじゃない。時にはカフェでちょっと贅沢なケーキを頼んだり、自分へのご褒美もある。でも、その基準は「これが自分の人生をどう変えてくれるか?」になった。
人生観を変える旅のすすめ
「お金がない」と言い訳する人もいるかもしれない。でも、旅は必ずしも豪華である必要はない。小さな町でもいい。知らない風景や、初めて出会う人々との交流が、人を豊かにする。自分の経験から言えるのは、人生の一部を「未知」に投資する価値だ。
実際、心理学者エリザベス・ダンの研究では、お金を物よりも経験に使う人の方が、幸福度が高いことが示されている。「買い物」では得られない、長続きする喜びがそこにあるという。
今、何に生きている?
20代の私がもしこの文章を読んでいたら、鼻で笑っていたかもしれない。でも、旅先でのあの経験がなければ、今の自分はなかった。だからこそ、あの時の自分にも言いたい。「たまには、意味のある散財をしてみろ」と。
お金は、使えばなくなるものだ。でも、その使い方次第で、なくならない価値を生む。それが「生きたお金」だ。浪費に疲れている人ほど、今一度自分のお金の使い方を見直してほしい。そして、もし迷ったなら、一人旅に出てみてほしい。そこには、人生を変える「生きたお金」の使い方が待っているはずだ。
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