日本ドラマやアニメがアメリカで大ヒットした理由とは!?
「字幕なんて読まない」がアメリカの常識だった
アメリカ人は字幕を読まない、なんて話を聞いたことがある。実際、これはあながち間違いではない。アメリカのエンタメ業界では、ほとんどの映画やドラマが「英語版」で提供されるのが当たり前だ。ハリウッド映画はもちろん、海外から輸入される作品も、まずは英語吹き替えが用意される。それくらい、字幕という存在は一般的ではなかった。
それを聞いたとき、日本人の僕は少し驚いた。「字幕があるのに読まない」という文化が存在するなんて。だって、僕らは普通に海外の映画やドラマを字幕で観るし、英語が聞き取れなくても「字幕があればなんとかなる」という感覚が根付いている。だが、アメリカでは「字幕付きの映画を観る=めちゃくちゃアート好きな人か、映画マニア」というイメージがあるそうだ。普通の娯楽を求める人にとって、字幕は「面倒くさい」存在だった。
そんな字幕嫌いの文化が、大きく揺れた出来事があった。それがコロナ禍だ。
家にいる時間が増え、娯楽の中心がNetflixやAmazon Primeなどの配信サービスにシフトしたことで、アメリカ人の「字幕」に対する考え方がガラッと変わったのだ。
<収録作品>
『ルパン三世 カリオストロの城』(劇場初監督作品) 本編 約100分/1979年
『風の谷のナウシカ』 本編 約116分/1984年
『天空の城ラピュタ』 本編 約124分/1986年
『となりのトトロ』 本編 約86分/1988年
『魔女の宅急便』 本編 約102分/1989年
『紅の豚』 本編 約93分/1992年
『もののけ姫』 本編 約133分/1997年
『千と千尋の神隠し』 本編 約124分/2001年
『ハウルの動く城』 本編 約119分/2004年
『崖の上のポニョ』 本編 約101分/2008年
『風立ちぬ』 本編 約126分/2013年
『君たちはどう生きるか』 本編 約124分/2023年
コロナ禍が変えた「観る文化」
2020年、世界がコロナウイルスの影響で一変した。アメリカでもロックダウンが行われ、外に出られない時間が続いた。映画館は閉鎖され、多くの人が自宅での過ごし方を模索する中、救世主となったのが配信サービスだった。NetflixやHulu、Disney+などのストリーミングプラットフォームは、過去のヒット作から最新のオリジナル作品まで、膨大なコンテンツを提供していた。
しかし、配信サービスの強みである「世界中の作品を一度に楽しめる」環境が、アメリカ人にとっての一つの課題となった。つまり、英語に吹き替えられていない作品が増えてきたのだ。日本のアニメやドラマ、スペインのスリラーなどが「字幕オンリー」で提供されることが多く、アメリカ人は初めて「字幕を読まなければ楽しめない状況」に直面した。
「字幕が面倒くさい」と思っていた彼らも、観るものが少なくなれば背に腹は代えられない。そんな中、試しに観たのが『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』、『呪術廻戦』などの日本アニメだったという人が多い。
アニメの「感情表現」に心を動かされた
アメリカ人が日本アニメに惹かれた理由として、よく聞くのが「感情表現の豊かさ」だ。例えば『鬼滅の刃』では、炭治郎が鬼になった妹を救おうとする姿に涙し、『進撃の巨人』では絶望と希望が交錯する物語に引き込まれる。これらのアニメは、人間の感情をこれでもかと表現してくる。そしてそれが、アメリカ人にとっても普遍的なテーマとして心に響いた。
また、日本のアニメは「ジャンルの多様性」が特徴だ。子供向けの作品だけでなく、大人が楽しめる深いテーマを持つアニメも多い。アメリカではアニメ=子供向けというイメージが強かったが、『Your Name.』や『Spirited Away』といった新海誠や宮崎駿の作品が、アニメが持つ可能性を改めて証明した。
これに対して、アメリカのエンタメは「ヒーローもの」に偏る傾向が強い。もちろん、アベンジャーズやバットマンも最高だ。しかし、それだけではない多様な物語が、初めて字幕を読むという「手間」を超えて、アメリカ人の心をつかんだのだ。
サブカルチャーが文化の「主流」になった瞬間
もうひとつ興味深い変化は、「オタク文化」が一般層にも広がったことだ。以前は、日本のアニメや漫画は「少数派の趣味」とされていた。アメリカ人の間でも、アニメを観るのはオタクやゲーマーといった、どちらかと言えばマイノリティ層だった。
だが、今やアニメの話題が普通に学校や職場で飛び交うようになっている。またラッパーなどが日本のアニメ風のMVを起用したり『Naruto』の名セリフを引用したり、『One Piece』のエピソードで盛り上がったりする風景は、SNSでも頻繁に見かける。TikTokやInstagramで「日本アニメに影響を受けたメイク」「キャラクター風のコスプレ」などがバズり、気づけばアニメが「クールな存在」として浸透していた。
これには、日本のアニメスタジオや製作者の努力も大きい。Netflixオリジナルのアニメが増え、世界中で同時配信されることで、アメリカ人も「今観るべきアニメ」を即座に知ることができる環境が整ったのだ。英語吹き替えや字幕の質も向上し、以前のような「分かりにくい」という壁が減ったことも一因だろう。
新しい文化を受け入れる「勇気」
アメリカ人が字幕を読むようになった背景には、新しいものを受け入れる「勇気」があったと思う。慣れないもの、知らないものに触れるのは誰しも抵抗がある。しかし、それを超えた先に広がる新しい世界は、時に驚くほど豊かだ。日本のアニメや映画を通して、アメリカ人はそのことを実感したのではないだろうか。
私たちも同じだ。普段見慣れたもの、慣れ親しんだものだけを消費していると、世界は広がらない。新しいものに出会うきっかけがあれば、ちょっとだけ背中を押してその世界に飛び込んでみてほしい。アメリカ人が字幕を読むようになったように、私たちにも新しい挑戦ができるはずだ。
最後に
アメリカ人が字幕を読まなかった時代から、日本アニメに心を奪われるまでの変化。それは、文化の壁を越えた「好奇心」と「挑戦」の物語だ。このエッセイを読んだあなたが、何か新しい世界に飛び込むきっかけになれば、これ以上嬉しいことはない。
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