なぜラースロー・トートは過去と向き合わねばならなかったのか?──映画『ブルータリスト』の考察

映画『ブルータリスト』の考察

はじめに──『ブルータリスト』とは何か?

『ブルータリスト』は、ホロコーストを生き延びたハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トートの半生を描いた作品である。
監督はブラディ・コーベット、主演はエイドリアン・ブロディ。2025年の第81回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞し、
第97回アカデミー賞では作品賞を含む10部門にノミネートされるなど、大きな話題を呼んだ。

映画のタイトル「ブルータリスト(Brutalist)」は、20世紀中盤に台頭したブルータリズム建築に由来する。
これは無骨なコンクリート建築を特徴とし、冷たさと強さを象徴するデザイン哲学だ。
本作では、この建築様式が主人公ラースロー・トートの人生そのものと重ねられ、
「記憶」「再生」「理想」といったテーマが絡み合うストーリーが展開される。

本記事では、映画のテーマや演出の意図を深掘りし、
「ホロコーストの記憶」「ブルータリズム建築の象徴性」「主人公の心理的変遷」という観点から考察していく。


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1. ホロコーストの記憶としての『ブルータリスト』

1-1. ラースロー・トートの人生と歴史の重なり

本作の主人公、ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)は、第二次世界大戦を生き延びたユダヤ人建築家だ。
彼は戦後のアメリカで成功を掴もうとするが、過去の影は常に彼を追い続ける。
この設定は、単なるフィクションではなく、実際の歴史に基づいたものだ。

例えば、実在のユダヤ人建築家にルイス・カーンやエリック・メンデルスゾーンがいる。
彼らは戦争を逃れ、異国で建築家としてのキャリアを築いた。
ラースロー・トートの物語は、こうした実在の建築家たちの運命と重なる部分が多い。

また、映画の中では、ナチスの迫害の記憶がフラッシュバックとして何度も描かれる。
彼が設計する建築は、新しい未来を象徴するはずだが、
同時に「過去のトラウマが完全に消えることはない」というメッセージも込められている。

1-2. 「忘却」と「記憶の継承」の対立構造

映画を通じて描かれるのは、「過去を忘れたい主人公」と「記憶を残したい社会」の対立だ。
ラースローはホロコーストの経験を語りたがらないが、周囲は彼の過去を知りたがる。
特に、アメリカの社会は彼を「ホロコースト生存者の建築家」として扱おうとする

この構造は、現実の歴史記録の問題とも関連する。
ホロコーストの記憶は、語り継がれなければならないが、
当事者にとっては語ることが苦痛になる場合もある
本作では、そのジレンマが主人公の心理に深く刻まれている。

2. ブルータリズム建築の象徴性

2-1. ブルータリズムとは何か?

映画のタイトルにもなっている「ブルータリズム建築」は、第二次世界大戦後に発展した建築様式である。
フランスの建築家ル・コルビュジエの影響を受け、無装飾のコンクリート建築が特徴的だ。
ブルータリズムは「冷たい」「無機質」と評されることが多いが、
一方で「強靭さ」や「実用性」を兼ね備えている。

代表的なブルータリズム建築には、以下のようなものがある。

  • ロンドンのバービカン・センター
  • ボストン市庁舎
  • ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオン

映画では、ラースローが設計する建築がこのブルータリズムのスタイルを持ち、
彼自身の人生や精神状態とシンクロする形で描かれている。

2-2. 建築と人間の関係

ラースローが手がける建築は、「無機質でありながら、人間の営みを内包するもの」として描かれる。
これは、彼自身の人生と密接に結びついている。

  • 彼は「感情を表に出さない冷徹な人間」と見られるが、内側には深い傷を抱えている。
  • 彼の建築も「冷たく見えるが、人々を守るために存在する」ものとして表現される。

特に、彼がアメリカで設計する建築がどのように評価されるかに注目すると、
社会の価値観の変遷が見えてくる。

3. ラースロー・トートの心理的変

3-1. 「亡霊」としての過去との対峙

物語の後半、ラースローは過去と向き合うことを避けられなくなる。
特に印象的なのが、彼がかつての記憶とシンクロする瞬間だ。

例えば、建築の設計中に、彼の過去の記憶が交錯するシーンがある。
ナチスに家族を奪われた記憶、戦後の混乱の中での逃亡、
アメリカに渡ってもなお消えない心の傷が、建築のデザインに影響を与えていく。

この構造は、「建築は人間の内面を映し出す鏡である」という本作の重要なテーマにもつながる。

3-2. 最終的な選択──「生きること」とは何か?

クライマックスでは、ラースローが自らの過去と向き合い、
建築を通じて「生きること」を再定義する

彼が手がけた最後の建築は、単なるコンクリートの塊ではなく、人々が集う場所として機能する
つまり、彼の人生の集大成としての「人間性」を帯びた建築となるのだ。

この結末は、彼が自らの歴史を受け入れ、「過去と共に生きること」を決意した証である。

おわりに──『ブルータリスト』が伝えるもの

『ブルータリスト』は、単なる伝記映画ではなく、建築と人間の関係、記憶の重み、歴史の継承といったテーマを深く掘り下げた作品だ。
ホロコーストを生き延びた建築家の人生を通じて、「人間はどのように過去と向き合うのか」という問いを観客に投げかける。

ブルータリズム建築の「冷たさ」と「人間らしさ」の対比を通じて、
「記憶を抱えながら生きること」の意味を改めて考えさせる映画である。


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