南インド・ケララ出身のラッパー Hanumankind(ハニュマンカインド) が、いま世界のヒップホップシーンで注目を集めている。
2024年のヒット曲 「Big Dawgs」 をきっかけに国際的な評価を獲得し、A$AP Rockyとのリミックスでさらに名を広めた。
インドの文化とグローバル・ヒップホップを融合する彼の音楽は、まさに「新世代のサウンド・ルネッサンス」を象徴している。
1. プロフィールとキャリアの軌跡
- 本名:Sooraj Cherukat
- 出身地:インド・ケララ州マラプラム
- 生年月日:1992年10月17日
- 活動開始:2019年〜
- レーベル:Def Jam India、Universal Music India
Hanumankindは、幼少期からナイジェリア、サウジアラビア、ドバイ、カタール、アメリカ(テキサス州ヒューストン)などを転々とする多文化環境で育った。
その経験が彼の音楽に多層的なリズム感と国際感覚をもたらしている。
2019年にシングル「Big Dawgs (Demo)」を自主リリースし、翌年Universalと契約。
本格的に注目を浴びたのは、2024年の正式版「Big Dawgs」だ。インド的なモチーフとアメリカ南部のトラップビートを融合したこの曲は、国内外のリスナーを魅了した。
The Guardianは彼を「グローバル・サウスから世界を揺るがすヒップホップの新星」と評している。
2. 代表曲・人気曲ランキング
Hanumankindの楽曲は、文化的ルーツを感じさせながらも世界水準の完成度を誇る。以下は代表曲とその特徴。
Big Dawgs(2024)
インドの「well of death(死の井戸)」を舞台に撮影された壮絶なMVで一躍話題に。
重厚な808ベースとハードなラップ、独自のリズム構成が魅力。
リミックス版ではA$AP Rockyをフィーチャーし、グローバル・ヒップホップの橋渡し的存在となった。
Billboard Global 200にもチャートインし、YouTube再生回数は1億回を突破。
Run It Up(2025)
デビュー・ミックステープ『Monsoon Season』収録曲。
インドの伝統打楽器「chenda」と南アジア武術「Kalaripayattu」「Theyyam」の要素を取り入れた、カルチャー×トラップの融合作。
プロデューサーは盟友Kalmi。
映像・音の両面で「インドの文化的誇りを現代ヒップホップで再定義した」として海外メディアも高評価。
Holiday(2024)
YouTubeの「A COLORS SHOW」で披露された、内省的でメロウな1曲。
穏やかなトーンの中にあるリリックの鋭さが印象的で、Hanumankindの多面的な表現力を示す。
Villainous Freestyle(2023)
彼の即興力とパンチラインの巧みさを示すフリースタイル曲。
クラブ/ライブシーンでは定番人気。音数を抑えたトラックと攻撃的なフローが対照的。
Go to Sleep(2022)
プロデューサー Parimal Shais との共作。ダークで幻想的なビート上で、自身の内なる闇を吐露する作品。
彼のアーティストとしての「心理的深さ」を示す一曲。
3. 最新ミックステープ『Monsoon Season』
2025年7月25日にリリースされたデビュー・ミックステープ 『Monsoon Season』 は、Hanumankindのキャリアを決定づけた作品だ。
- 参加アーティスト:A$AP Rocky、Denzel Curry、Maxo Kream、Rudy Mukta ほか
- 収録曲:「Big Dawgs」「Run It Up」「Holiday」「Villainous Freestyle」など
- テーマ:「アジアのモンスーン=抑えきれないエネルギー」
“Monsoon Season is about the flood — of emotion, ambition, and identity.”
(Hanumankind自身のコメント)
サウンド的には、インド的なパーカッションとグローバルトラップの融合を核としながら、リリックでは自己確立・アイデンティティ・野心を描く。
この作品は、インド音楽とアメリカンヒップホップの距離を縮めるマイルストーンとされている。
4. 音楽性・スタイルの特徴
■ 文化的融合の巧みさ
Hanumankindの楽曲は、ケララの民俗文化(Theyyam、Chenda、Kalaripayattu)を現代ヒップホップの文脈に落とし込む。
サウンドだけでなく、MV・衣装・動きに至るまで文化的意識が緻密に設計されている。
■ 英語を軸にしたリリック
英語でラップしつつ、南インド的なアクセントと語感を活かした独特のフローを展開。
「ローカルとグローバルの共存」がテーマの一つとなっている。
■ グローバル感覚のプロデュース
アメリカのトラップ・サウンドを基調にしながらも、プロデューサーKalmiと共に民族楽器・環境音を大胆に取り入れる実験的スタイル。
5. 海外での評価とメディア掲載
- The Guardian(英):「One to Watch: Hanumankind — India’s answer to Kendrick Lamar」
- NME Asia(英):「インド・ヒップホップの国際的解放者」
- Pitchfork(米):「アジア的視覚美とグローバルラップの完璧な融合」
また、「Big Dawgs」は2024年にArsenal FCの公式プレイリストにも採用されるなど、スポーツ・ファッション界からの支持も厚い。
ファッションブランド「Daily Paper」や「Adidas India」とのコラボも進行中と報じられている。
6. Hanumankindが変える“インド・ヒップホップ”の未来
これまでのインド・ヒップホップはムンバイ中心に発展してきたが、Hanumankindは南インド文化からの視点でその地図を塗り替えた。
彼の音楽は単なる“地域発ヒップホップ”ではなく、**「カルチャー・プロジェクト」**そのものだ。
アジア、アフリカ、アメリカのリズムを横断し、文化の境界を超えていく彼の作品は、
インド音楽がもはや「ローカル」ではなく「グローバル」であることを証明している。
7. 初めて聴く人へのおすすめ曲
- Big Dawgs (ft. A$AP Rocky) – 代表曲。重低音と異文化融合の完成形。
- Run It Up – インド文化とモダンヒップホップの橋渡し。
- Holiday (A COLORS SHOW) – 内省的な一面を知るのに最適。
8. まとめ|“Hanumankind現象”が示すヒップホップの新潮流
Hanumankindは、単なるインドのラッパーではない。
彼は音楽を通じて「文化的再発明」を試みるアーティストであり、
インド的要素をヒップホップの国際言語に翻訳した最初の存在の一人だ。
2025年の『Monsoon Season』を経て、彼は確実に世界規模のアーティストとしての地位を確立した。
次に来るのは、南アジア発のヒップホップ・ルネッサンス。その先頭を走るのが、Hanumankindである。
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