「自分が自分でない感覚」とは?
解離傾向が高い複雑性PTSDの実態とは
解離傾向が高い複雑性PTSD(C-PTSD)の人々は、「自分が自分でない」と感じる苦しみの中で日々を生きています。この状態は一見目に見えない症状でありながら、本人にとっては極めてリアルで深刻な体験です。
ここでは、解離の仕組みやその影響、回復への道筋についてエビデンスを交えながら深く掘り下げます。
心理療法士で自身も複雑性PTSDの当事者である著者が、トラウマを持つ多くの人たちを支え、回復へと導いた30年以上にわたる経験を綴った。
本書では、親からの虐待やネグレクトなどの心のダメージを癒すための実用的なアプローチとして、認知の癒し、感情の癒し、マインドフルネスなどのセラピーを紹介。また、自助努力による癒しをサポートするツールボックスを多数掲載した。
複雑性PTSDの苦しみを和らげ、心穏やかに過ごす方法を学ぶ一冊。
解離とは何か:心の防衛反応
解離は、心が極度のストレスやトラウマに直面した際に、自分を守るために発動する防衛反応の一つです。このメカニズムによって、現実感が薄れたり、自分の身体や感情が遠くに感じられる「離人感」に襲われることがあります。これは、以下のような症状として現れます。
- 離人感:自分が自分でないように感じる。
- 現実感喪失:周囲の出来事や環境が非現実的に感じられる。
- 記憶の断片化:過去の出来事が繋がらず、フラッシュバックを引き起こす。
これらの現象は、心が過去のトラウマや現在のストレスから逃れようとする自然な反応ですが、長期的には「自分が何者なのかわからない」といったアイデンティティの混乱を招くことがあります。
日常生活への影響:孤独感と自己否定の悪循環
解離の影響は、日常生活にも及びます。例えば、以下のような状況が挙げられます。
- 他者との会話に違和感を感じる
他人と話している際に、自分が話しているのではなく「別の誰か」が話しているように感じることがあります。これにより、自己表現に対する不安や葛藤が生じることもあります。 - フラッシュバックによる時間の混乱
過去の記憶が突然鮮明に蘇り、現在と過去が混ざり合ってしまう経験が多くあります。これにより、仕事や学業などの生活リズムが大きく乱れることもあります。 - 感情や行動のコントロールの喪失
自分の感情や行動を抑えられない感覚が強まり、自己否定や孤独感がさらに深まる悪循環に陥ることがあります。
エビデンスから見る解離とC-PTSD
研究によると、解離は過去のトラウマ経験との関連が非常に強いとされています。たとえば、Bremner(2002)の研究では、トラウマを受けた人々の脳が、過去の記憶を現実と切り離すために特定の神経回路を過剰に活性化することが確認されています。このような脳の反応が、解離の症状を引き起こす要因の一つと考えられています。
解離は「助けを求めるサイン」
解離は苦しみの表れであると同時に、「助けを求めるサイン」でもあります。適切な支援を受けることで、この防衛反応を少しずつ緩和し、日常生活を取り戻すことが可能です。以下のようなアプローチが有効とされています。
1. 安全な環境の確保
安全な環境は、解離を和らげる第一歩です。信頼できる人々やカウンセラーとの関係構築が重要です。
2. トラウマインフォームドケアの導入
解離の背景にあるトラウマを理解し、非侵襲的な支援を提供する「トラウマインフォームドケア」が効果的であるとされています。
3. マインドフルネスやグラウンディングの活用
呼吸法や感覚に集中する練習を通じて、現在に注意を向け、現実感を取り戻すことができます。
自分を責めるのではなく、頑張りに気づく
解離は、過去の心の傷を癒すために心が頑張ってきた証拠とも言えます。この頑張りに目を向け、自分を責めるのではなく、少しずつ自分自身を受け入れることが大切です。たとえば、「今までよく耐えてきた」と自分を励ますことが、回復の第一歩となります。
回復のプロセス:自分を取り戻す
回復には時間がかかりますが、少しずつ自分自身を取り戻すことができます。以下は、そのための具体的なステップです。
- 自分の体験を受け入れる
自分が感じていることを否定せず、「こう感じるのは当然だ」と認めること。 - 支援を求める
医療機関やサポートグループに相談することで、孤独感が和らぎます。 - 自己成長を目指す
小さな成功体験を積み重ねることで、自己肯定感を高めることが可能です。
解離を超えて:新しい自分へのステップ
解離傾向が高い複雑性PTSDを持つ人々にとって、回復の旅路は困難を伴います。しかし、その過程で得られる自己理解や成長は、人生を豊かにする鍵ともなります。適切な支援を受けつつ、自分自身を大切にすることが、より良い未来への第一歩です。
解離に苦しむ人々が、自分を取り戻し、希望を持って歩んでいけるよう願っています。
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